春の新生活。「はたらく」コラム。 WOMEN MEETING WOMAN 会社員として、フリーランスとして、働きつづけて十数年。私が出会った女性たちの、強く優しいお話 私=ふてくされた、女子社員   女性には理不尽なことばかりだ  。会社員だった頃、私はいつもぶつくさ思っていました。男性ばかりの職場で、おじさんの理屈やプライドに付き合わされるたび、「こんなにも世の中って古くさいのかぁ」と落胆したものです。仕事はさせてもらっている、けれど女性には、戦わなきゃならないことだらけに思えました。 たとえば、反論一つするにも、女性はどうも不利です。男性同士なら、上司に意見すれば、「骨のあるやつだ」と酒の肴に上司の目尻も下がろうもんですが、女性なら「こわい」「やりにくい」と陰口をたたかれる。そこでひるむようではいけ
ないけれど、突き通せば、事態は厄介になるばかり……。男性と同じ仕事をするけれど、男性と同じやりかたでは、うまくいかない。意見一つ言うにもまず言い方から配慮しなきゃいけない。「どうして女性だけが?」、歯がゆかったあの頃、私はこの「もやもや」がどれほど自分のプラスになっているか、知るよしもありませんでした。    強くたくましい、女性たち   フリーランスになって6年め。出版の仕事で、女性と働くことが圧倒的に増えたとき、「ここはパラダイスじゃないか」と思ったものです。男性ばかりの職場に「寂しさ」を感じてきた私には、そこかしこに同じ境遇の仲間がいて、いきいきとした気持ちになりました。皆、強くて優しくて、共に戦う同士のようだった。その女性ばかりの環境で、働く女性の「強さ」が変わっていることに気づきました。ちょうど、こんなことがありました。ある編集の方から、イラストの〆切にリクエストです。「川上さん、すみませんが、デザイナーさん、赤ちゃんがまだ小さいんですよ。だから週末前に納品してあげてくれませんか?」面識のないデザイナーさんで、どういう事情かよく解りませんでした。それでも「赤ちゃんが小さくて、大変」と聞けば、協力してあげたい。私は予定より早くイラストを仕上げ、デザイナーさんに送ったのでした。
何気ない日常の1シーンのようですが、ここには大きな変化があります。働く女性たちの「困っている誰かを助けてあげたい」という気持ち、「仕事」と「子育て」に奮闘する同性に向ける温かいまなざし。それは自分の主張ばかり叫ぶ70年代的なウーマンリブとは全く違う、新しいタイプの女性です。自分のキャリアを築いた上で、周囲を助け、出産や子育ても謳歌する。これまで仕事に「マイナス」とされたことをカバーしようとするほど、タフになったのです。    もう一つ、荷物をかついで強くなる  なぜ、女性がそんな強さを見せるようになったのか。もちろん先賢が整えてくれた環境によって、働きやすくなったことがいちばんです。しかしそれに加え、女性たちはずっと、おのおのが「制約」を乗り越えようと戦っていた。それがより大きな力を引き出したのです。 女性の性差や出産、子育て…女性の抱える「制約」と仕事を両立させるには自分が二倍ふん張るしかありません。同じように登る坂も、一つ多く荷物をかついだ女性の足にはいつしか美しい筋肉がついたのではないでしょうか。それが地に足をつける強さとなった。あの頃、会社に居てぶつくさ言っていた私にもその脚力がしっかりついていたから、今を支えている、そう思います。 もうすぐ、4月。新生活です。働いていると、窮屈だったり納得できないことが多かったり、いろいろです。それでも「一つ余分な荷物を担いでいる」、そう思えば目の前の坂道もがんがんと進めそうな気がします。   川上ユキ


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